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危険な香りに誘われて
第19章 最期の夜
「もっと早く倒れてくれていたら、ここまで、親父の思い通りにならずに済んだのにって、な」

「それって本部の幹部の話?」

賢也は、目を大きく見開き、驚いた表情を浮かべている。
そんなことを真紀に吹き込む人間は一人しかいない。
賢也は、眉間にシワを寄せ、病院にいる父親に腹を立てた。
知られたくなかった。隠しておくつもりだったのに。

「賢也・・・。本当に暴力団員になったの?」

「クソ親父っ」

賢也の口から否定の言葉は出て来なかった。ああ、本当なんだ。真紀は、落胆し項垂れた。

「親父が死んだら組長と話をするつもりだ」

希望の光が見え隠れする。

「やめられるってこと?ねぇ、もしかして指切ったりするの?」

不安な顔をする真紀を宥めるように髪を撫で下ろす。

「指なんか詰めねぇよ。金だ」

賢也を幹部に推したのは組長だ。最高幹部の四割が、猛反対した。幹部になった途端、抜けると言えば、組長や賛成した最高幹部たちの顔に泥を塗ったことになる。
金で解決するには、一体いくらいるのか見当もつかない。

欲しいのは、自由だ。
実家やマンションを売って、全額津嶋に渡してでも自由を手に入れたい。金なんか惜しくねぇ。
賢也が、恐れているのは、ただ一つ。真紀に危害が及ぶこと。

「お前は、何も心配しなく・・・・」

ポケットに入れていたスマホが震え、着信音が鳴る。賢也は、画面を確認し眉根を寄せた。

「病院?」


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