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危険な香りに誘われて
第19章 最期の夜
急いで病院へ向かい、病院の立体駐車場にスカイラインを乗り入れた。
急患専用入口を抜け、南棟のエレベーターに乗り7階を押す。ナースステーションを横切り父親のいる個室の扉を開けた。

運ばれた時のスーツに着替えた父親が、ベッドに腰掛け、広げた膝に手をついたまま、賢也に顔を向ける。

「何考えてんだっ」

賢也が、大きな声を出すと、うっとおしそうな顔を見せる。

「見りゃ分かんだろ?帰るんだ」

「ふざけんなよ、その体で帰ってどうすんだ」

「入院したまま死を待つなんて、冗談じゃねぇ。それより、俺が倒れていたなんて、他の奴には、言ってねぇだろうな?」

クソ親父。賢也は、奥歯をギリッと噛みしめた。
なんだって、いつも、こう勝手なんだ。

「確かに手術は、出来ねぇけど、抗がん剤の投与をすれば、いくらかは、延命出来るって言ってたろ。先生と薬の相談して」

父親は、目くじら立てて怒る賢也を鼻で笑った。

「さっさと死んでくれと思っているくせに、俺に延命しろだと?」

俺は、親父が嫌いだ。
子どもの頃から、冷たい目で俺を見て。可愛がってもらったことも頭一つ撫でてもらった記憶もない。
そのくせ、自分の跡を継げと言い続けてきた。
だから、病気だと知った時、正直ほっとした。
これで、こいつから解放される。さっさと死んでくれ、そう思った。
放っておけばいいはずなのに、なんで、俺は、病院に来てんだ?

「・・・・病院から電話があったんだよ。許可なく勝手に帰ろうとしてるから止めてくれって」

「知ったことか」




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