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危険な香りに誘われて
第19章 最期の夜
父親は、立ち上がると窓を開けた。冷たい空気が流れ込み、白いカーテンが波打つ。

「俺は、自分の役目を果たした」

「役目?」

「お前を津嶋の幹部にする事が、俺の役目だった。あとは、潔く、ヤクザらしく、惨めに死んでいくだけだ」

「親父?」

「心残りがあるとしたら、お前が、6代目組長になる姿を見ることが出来ないことくらいか?」

「何で、そこまで俺に拘る」

「この世の中には、社会に適応できねぇで、弾かれた奴が、ごまんといる。世間から見れば、どうしようもねぇクズばかりかもしれん。でもな、そんな奴らでも自分の居場所を求めているんだよ」

「それが、組だってのか?」

「そうだ。組は、必要なんだよ。あいつらにとっても警察にとっても」

組は、必要。
真理の親戚、根津も同じようなことを言ってたのを思い出す。

「組が無くなれば、小規模な、ただの犯罪グループが幾つも出来る。そうなれば、今と比較にならないくらい犯罪が増える。それが分かっているから、警察も本気で、組を壊滅させようとはしねぇ」

「必要かどうか知らねぇが、一般市民を食い物にするのは、どうかと思うが?」

「市民を食い物にしているのは、政治家も同じだろ。私腹を肥やし、市民には、我慢しろ協力しろと、いかにもな言葉を並べたて、訴え、増税する。貧しい農民から年貢を取立てた時代と何も変わっていない。あいつらのやっている事こそ、暴力だと、思わねぇか?」

「そんな奴らとも手を組んでるくせに、よく言うな」

「利用できるものは、何でも利用する。それが、俺たちのルールだからな」

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