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危険な香りに誘われて
第19章 最期の夜
病室を出て行こうとする親父の背中が、小さく見えた。
もっと、大きくて、近寄りがたくて、いつも牙を向いていないと噛み殺されるような気がしていたのに。
「なぁ、教えてくれ。あんたにとって、俺は、ただの道具なのか?」
扉を開けようとする父親の手が止まった。
「道具の方が、なんぼかマシだ」
「どういう意味だよ」
「そういう意味だ」
「分かんねぇよ」
「ああ、賢也。一つだけ頼まれてくれないか。俺が死んだら、俺の書斎にある物は、全部お前が処分してくれ」
賢也は、一瞬言葉を失った。
「・・・・・気が向いたらな」
父親は、口角を上げた。
振り返ることなく、病室を出て行った。
賢也は、ベッドに腰を下ろし、窓の外を眺めた。暗い夜空が広がり、街の灯りが、遠くに見える。
「開けたら閉めろよな」
ただの道具かどうかなんて、あほなこと聞いちまった。
賢也は、両手で髪をかきあげると天井を仰ぎ、ため息をついた。
俺は、親父に何て答えて欲しかったんだろう。
もっと、大きくて、近寄りがたくて、いつも牙を向いていないと噛み殺されるような気がしていたのに。
「なぁ、教えてくれ。あんたにとって、俺は、ただの道具なのか?」
扉を開けようとする父親の手が止まった。
「道具の方が、なんぼかマシだ」
「どういう意味だよ」
「そういう意味だ」
「分かんねぇよ」
「ああ、賢也。一つだけ頼まれてくれないか。俺が死んだら、俺の書斎にある物は、全部お前が処分してくれ」
賢也は、一瞬言葉を失った。
「・・・・・気が向いたらな」
父親は、口角を上げた。
振り返ることなく、病室を出て行った。
賢也は、ベッドに腰を下ろし、窓の外を眺めた。暗い夜空が広がり、街の灯りが、遠くに見える。
「開けたら閉めろよな」
ただの道具かどうかなんて、あほなこと聞いちまった。
賢也は、両手で髪をかきあげると天井を仰ぎ、ため息をついた。
俺は、親父に何て答えて欲しかったんだろう。