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危険な香りに誘われて
第20章 雷雲に消える昇竜
出棺前、別れを惜しむ人たちが、皇帝に捧げる花を手にする。真紀も花を受け取り、棺桶の側へ行く。

眠っているのでは、ないか。そんな風にしか見えない皇帝の顔。
しかし二度と目を覚まさない。そう思うと、胸が締め付けられ、真紀は、涙を零した。

あれが、皇帝との最後だったんだ。じっと皇帝の顔を見つめながら、エレベーターでの出来事を思い出していた。
最後まで、酷い父親のまま、この世を去るなんて。
真紀は、ハッとした。手に持っていた花が、ハラハラと落ちる。

『なんだ、驚かないんだな。賢也から聞いていたか』

『組長から賢也を本部の幹部に登録すると連絡が入った』

『これで賢也も立派な組員だ』

口元に手を置いて、息を飲む。
暴力団員に登録した、その言葉に腹を立て、気づかなかった。
しゃがみ込み、嗚咽を漏らした真紀の肩に誰かが、そっと触れる。

「賢也」

「大丈夫か」

真紀は、落ちた花を拾う賢也の袖に手を掛け。

「お父さん、倒れる前に、賢也のこと、賢也のこと。あいつとか、あれとかじゃなくて、ちゃんと名前で・・・・呼んでいた」

「・・・・・そうか。それより、もうすぐ出棺する。吉田たちと先に行って、火葬場で待っていろ」

「板倉さんは、どうしたの?」

「吉田が待っている、早く行け」

聞こえなかったのだろうか。真紀は、賢也の背中を見ながら首を傾げた。

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