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危険な香りに誘われて
第20章 雷雲に消える昇竜
いつか見た、ちょい悪親父が、白いユリの花を手に永遠の眠りについた男の顔をじっと見つめている。冷たくなった頬をそっと叩く。

「兄弟、俺も、いつかそっちへ逝く時がくる。また酒でも飲もうな。それまで、待っとってくれや」

寂しそうな横顔から、別れを惜しんでいることが伺える。
賢也が、深々と頭を下げると、ちょい悪親父は、頷き賢也の背中を軽く叩いた。
もしかして、あれが津嶋会の組長?二人の様子を見ていると。

「真紀ちゃん、もう行こう」

吉田が、声を掛けてきた。真紀は、きょろきょろと辺りを見渡した。

「板倉さんの姿が見えないんだけど」

吉田の頬が、ピクリとする。

「・・・・母親の具合が悪いとかで、田舎に帰っているんだ」

「山口に帰っているの?知らなかった」

吉田が、目を大きく見開く。

「あいつの田舎、山口なのか」

「えっ、うん。言ってなかった?」

「あ、ああ。そういや、そんな事言ってたかも。すっかり忘れてたよ」
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