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危険な香りに誘われて
第21章 番犬注意
とほとぼと、暗い気持ちでマンションまで戻り、エレベーターのボタンを押して待っていると。

「真紀」

賢也に後ろから声を掛けられ、真紀は、小さく飛びあがった。

「け、賢也。遅くなるんじゃ?」

心臓をバクバクさせ、真紀は、狼狽えた。
今、何時だっけ?チラッと時計を見る。6時前に、ほっと胸を撫で下ろす。
とりあえず、門限で怒られることはない。
早く帰るなら連絡くらいくれたらいいのに。
寒い季節に冷や汗が出る。

「予定が変わったんだ。何だよ、帰ってきて悪かったか?」

「ううん、全然。嬉しいけど」

乗り込んだエレベーターの中で、賢也は怪訝な顔で真紀を見下ろした。明らかに動揺している。

「どこに行ってたんだ」

「どこって、ちょっと買い物」

「何も持ってないぞ」

「それが、財布忘れちゃって。ははは、鈍くさいよね」

笑っているが、目は泳いでいる。
部屋に入ってコートを脱いだ真紀を見て、賢也は、ギョッとした。

「おい」

「何?」

クルリと振り向いた真紀の手首を掴むと引き寄せた。

「随分短いスカートだな」

外出する時は、足を隠せと口うるさく言っている。ミニスカートやショートパンツは、家の中でしか履かせていない。

「着替えるの忘れていただけだよ。コート羽織ってたし、別にいいじゃない」

手を振り払おうとする真紀から、香水とタバコの臭いがした。それも、嫌な男と同じ香り。
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