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危険な香りに誘われて
第22章 裏切り者
8年前、田舎の寺で起きた事件。
住職と家族全員が何者かに襲われ、遺体で発見された。警察の調べで観音像が無くなっている事がわかり、強盗殺人として取り上げられたが、犯人は、未だ不明のまま。

生き残ったのは、修学旅行に行っていた次男、南条仁だけ。南条は、大阪の親戚に引きとられ、高校卒業後、焼き肉屋市川に住み込みで働くようになった。

正木は、その店のオーナー市川の後輩で、常連客でもあり、飲み仲間でもあった。
飲んだ席で、店員南条の話が出たのだろうと、賢也たちは推測する。

「お前は、昔っから社長に嫌われていたからな。本部にいた頃も若中にしかなれなかったし、しょうもねぇことで、よそと揉めちまって、本部から外されたことを逆恨みしていたんだろう」

広川が、仁王立ちで正木を見下ろしている。

「強盗殺人に社長が関わっているとでも言ったか」

ぶるぶると震え、正木は、目の玉の数センチ先で光るコップから視線を外せずにいる。

「殺したのは、お前か」

答えない正木の下瞼に賢也がガラスを突き刺した。

「ああーっ、そうだっ、そうだよっ、俺だっ、南条に、社長を尾引出せば、俺が始末するって持ちかけたんだ。だけど、強盗殺人に社長が、関わっているって言ったのは、南条だ。俺じゃねぇっ」

「うぉぉぉぉっ」

吉田が、突然唸り声を上げ、正木の胸ぐらを掴み、床へ引きずり下ろした。
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