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危険な香りに誘われて
第3章 罠
話に飛びついて、賢也の手を握り締めた。
その指先を見て真紀は、ギョッとして、慌てて手を離す。

「オカケンさん、この指」

右手の人差し指には、金具が添えられて包帯で固定されていた。

「折れたの?それって私のせいだよね」

真紀は、口元に手を置いて、青ざめた表情で今にも泣きそうになっている。

「少しヒビが入っただけだ。そんな騒ぐほどじゃない」

「ごめん、痛かったよね。治療費払うよ。自分でやっといて言うのも変だけど、大丈夫?」

自分を心配してくれている。そう思ったら嬉しくなり、賢也は、つい笑ってしまった。

「何で笑うの?」

「本当に慰謝料請求していいのか?高いぞ。これのせいで、ペンもチョークも、持ちにくいんだ」

高額請求の文字が頭に浮かぶ。何万、いや何十万ものお金を要求されるかもしれない。そんなお金ないよ。両手を揉みながら、ヘラヘラと愛想笑いを浮かべた。

「あの出来れば分割で。引っ越し代とかマンションの敷金とか礼金とか掛かるし」

賢也は、顎に手を置いてニヤニヤしている。

「住むとこ探しているのは、友達じゃなかったのか?」

「あっ」

思わず自分の口に手を当てた。

「男と別れたのか」

賢也は、視線を反らし、黙っている真紀の頭に手を置いて顔をのぞき込んだ。

「正直に言ったら4万にしてやる」

管理費込で4万?

「別れました」
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