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危険な香りに誘われて
第23章 奪還
真紀の言葉が、胸に刺さる。板倉は俯き、ギュッと目を閉じた。

「板倉さんっ」

「俺は、俺は・・・・」

いつか復讐してやる。そう誓って、生きてきた。
復讐が終われば、生きる目的もなくなる。あとは、死ねばいいと。



『せ・・・・青洲』

岡崎孝也が死ぬ間際、板倉を見て、そう呟いた。

清州は、父親の名前だ。
寺を訪れる孝也の姿を幾度か見かけたことがある。父親の名前を知っていても何の不思議はない。
ただ、名前で呼ぶほど親しい関係だったのか?
孝也は、寺に来ると必ず子供を抱いた観音像を拝んでいた。
マリア観音像とも呼ばれるものが、何故、寺にあったのか。いつからあったのか。
その理由を父親に尋ねてみたことがある。しかし父親は、何一つ答えてくれなかった。

家族を殺された後、色んな噂や憶測が村に飛び交った。
数日前からヤクザらしき男たちがうろついていたが、犯人じゃないのか。清州は、ヤクザと付き合っていた。揉めて殺されたらしい。
心ない噂話は、家族を失った板倉の耳にも届いていた。

盗まれた観音像の中にマリア観音像も含まれていたことも合わさって、板倉は、孝也の仕業だと思い込み、恨み続けてきた。

はたして、それは、正しかったのか。
自分は、大きな間違いを犯したのではないか。
血だらけの孝也を見て疑念が湧いた。

道端に捨てろと言われたが、出来なかった。
車に遺体を残し、そのまま逃げた。

「清州」

あの声が、耳にこびりついて離れない。




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