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危険な香りに誘われて
第23章 奪還
自分の知っている原田は、もっと爽やかで、人当たりの良い青年だった。同じ人間とは思えないほど、すっかり豹変してしまった。

手に握られたナイフで、皇帝を刺したのだろうか。
この男は、癌を患い、弱っている皇帝を殺しているのだ。そして、今、罪を重ねようとしている。死体をレイプするなんて、まともとは思えない。

「頭おかしいよ」

「妹が殺されたのに、まともでいられるか?」

「自殺したんでしょう?」

「殺されたのも同然だっ。ヤクザに薬打たれて、大勢の男にレイプされて。やっと立ち直ったところで、また同じ目に遭って。お前に妹や俺たち家族の苦しみが分かるか?」

気の毒だとは思う。同情もする。だが、原田の怒りの矛先を自分に向けられることは納得できない。

「私や賢也のお父さんを殺して、賢也を苦しめたら、妹さんは、うかばれるの?喜ぶと思うの?原田さんは、本当に満足するの?」

「説教するなっ」

原田は、ナイフを離し、両手で真紀の首を軽く絞めた。

「妹さんは、きっと悲しんでいるよ」

「本当に、殺すぞ」

「ご両親だって、すごく傷つく」

「黙れっ」

原田の腕が震え、親指に力が入り、白い首筋に喰い込んでいく。
真紀は、目を細め、気が遠くなっていくのを感じた。

もう、だめだ。

今回ばかりは、賢也も助けてくれなかった。

結婚したかったな。

賢也の赤ちゃん、欲しかったな。


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