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危険な香りに誘われて
第23章 奪還
「あとは、警察に任せろ」

賢也は、ギリっと奥歯を噛み、殴り蹴り、殺してやりたい衝動を堪え、意識を失っている真紀に目を向けた。
ベッドに片膝つき、だらりと横たわる真紀に恐る恐る触れた。

「真紀」

声を掛けたが反応はない。
首を絞めると、数秒で意識を失う。脳に血が流れず、5分もすれば、助かったとしても何らかの後遺症が残る可能性がある。
死に至らすのも、30分あれば十分だ。間に合わなかったのか。
賢也は、愕然とした。
身内の死体を見るのは、もうたくさんだ。
ましてや愛しい女なら、尚更。考えるだけで、吐き気がする。気が狂いそうだ。

「ほら・・・起きろよ。か・・帰るぞ」

声は上ずり、手は震えていた。
巻きつけられたテープを引きちぎると手首にそっと触れた。
脈はある。賢也は、小さく息を吐いた。
だが、まだ安心は、できない。

体の下へ腕を入れ、そっと抱き上げた。

「救急車を呼んでくれ」

温かい体を抱きよせ、頭を撫で、白い頬に唇を押し付けた。

「頼む、目を覚ましてくれ・・・真紀」

祈るような気持ちで賢也は、真紀に声を掛け続けた。

「真紀、起きてくれ。なぁ、目を開けてくれよ。頼むから、可愛い笑顔を見せてくれ」

助けてくれ。
誰でもいい。
代わりに俺の命をやるから。

俺から真紀を奪わないでくれ。

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