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危険な香りに誘われて
第26章 嵐
「今日お前らを呼び出したのは、他でもない。石塚が抜けたことで、若頭補佐の席に空席が一つ出来た。誰に務めさせるか、そのことについてだ」

石塚は、突然の事故で下半身と右腕が不随となり、こんな体で、務めは果たせない、引退させてほしいと、本人から強い申し出があった。石塚の引退を受け入れ、津嶋は、新たな補佐を決めなくてはならない。
組長は、腕を組み、執行部全員に向かって言い放つ。

「わしは、若頭補佐の一人として、賢也を推薦する」

賢也は、驚いたが、口を一文字にし、平静を装い、だんまりを決めた。
部屋が、ざわつき、男たちは、口々に文句を言い始めた。

「賢也にはまだ無理ですよ」

「そうです、組長。冗談じゃねぇ、他にも補佐候補は、いるでしょう」

「他の組員も納得しねぇ」

「若がし、なんとか言ってください」

補佐たちの訴えるような視線が、堀田に集中する。

「俺は、親父と同じ考えだ。異議を唱えるつもりはねぇ」

堀田は、組長に顔を向けた。
組長は、頷き。

「確かに賢也は、まだ若い。だが今の津嶋には、必要不可欠な男だ。度胸も器も揃っている」

自分と若頭の二人が、賢也を若頭補佐に推すということは、次の若頭だと断言しているようなもの。反対意見が飛び交うのは、無論承知の上。
だが、己の意志を曲げるつもりは、毛頭ない。

「賢也が役不足だと言うなら、来週までに各々候補を上げろ。以上だ」



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