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危険な香りに誘われて
第28章 桜
白鳥が、足を止め。

「やっぱり、やめませんか?」

小さな声で真紀に言う。
何で?真紀は、白鳥を見上げた。

「賢也様は、あの日から庭の桜には、近づかなくなりました」

「あの日?」

「春子様が出て行かれた日からです」

「春子って、賢也のお母さん?」

白鳥は、小さく頷いて。

「春子様は、ご自分が産んだにも関わらず、賢也様と接触するのを嫌っておりました。賢也様を置いて、外出ばかりして、優しい言葉一つかけない。旦那様も留守がちでしたから、賢也様は、いつもお一人で寂しそうでした。そんなある日、庭の桜が満開になったのを見て、私に賢也様との写真を撮ってくれと春子様が言いだしたんです」

真紀は、黙って白鳥の話を聞いていた。

「賢也様は、それは大変お喜びになられて、桜の下ではしゃいでおられた。あんなに笑う賢也様を見たのは、初めてかもしれないと思いました。写真を撮られた後、春子様は、賢也様に「いい思い出ができたわね。これからは、庭の桜が咲く度に思い出すわよ」と微笑まれました。その日の夕方、春子様は、ここを出て行かれた。そしてその翌日、賢也様のいつも行く池で・・・」

白鳥は、唇を噛みしめ、俯き、ギュッと目を閉じた。
握った拳が微かに震えている。
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