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危険な香りに誘われて
第5章 虎の真紀
真紀の首のつけ根には、しっかり賢也の跡が残っている。
キスマークだけでは、飽き足らず、歯型まで。

「噛み付くなんて、ホント信じられない」

朝食の支度をしながらブツブツ呟いていると、背後に気配を感じ、さっと身をかわした。

抱きすくめようと忍び寄ったのに、スカを食らった賢也は、あからさまに不機嫌な顔をする。

「もう、ダメっ」

手にした包丁をチラつかせ、賢也を睨む。

「物騒だな。可愛い顔をして、危ない奴」

半笑いで、降参とばかりに両手を軽く上げた。

「そこで、待っていて」

視線をダイニングチェアに向ける真紀に従うべく、賢也は、ハイハイと笑って椅子に腰掛けた。足を組み頰杖ついて真紀の様子を眺め、フッと笑みを零す。

朝日が降り注ぐキッチン。
心地よく聞こえる包丁の音。
味噌汁の匂い。
エプロンをした真紀が、忙しなく動き回る。

同じ空間に真紀がいるでけで、何もかもが、変わったみたいだ。
不思議なほど、穏やかな気持ちに包まれていることに驚かされる。


愛しい。
誰よりも。


触れると、体が燃えたぎるほど真紀を求めてしまう。

無縁の世界だと思っていたのに。

まさか、こんな感情が自分にもあったとは。
賢也は、口角を上げた。

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