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危険な香りに誘われて
第1章 微光
まだ新車の匂いがするスカイラインに乗り込むと、女が「これいくらしたの?」と訪ねた。

「忘れた」

「とかなんとか、言って、どうせ親に買わせたんでしょう」

女の一言が、賢也の逆鱗に触れた。

「あ?」

たった一声しか発していないのに、もう一度言ってみろ、ぶっ殺すぞと言われた気がして、女は、怖さのあまり顔を伏せた。

声を掛けてきた時と別人のような男の態度に、女は、困惑した。昨夜のドライブで見せた笑顔の欠片もない。
連絡先を交換しようと言うと、拒否された。
せめて、電話してくれと自分の番号を書いたメモを渡すと、無造作にジーパンのポケットに突っ込まれてしまった。

自分より五つも年下なのに、いくつもの修羅場を掻いくぐってきたような、得体の知れない雰囲気。
やめた方がいい、本能が、そう言っている。それなのに、危険な香りを漂わせているこの男に、惹きつけられてしまう。
一体、何者なんだろう。

「どこまで行けばいいんだ」

ため息交じりに聞かれ、女は、顔を上げ遠慮がちに口を開いた。

「実家まで送ってほしいの。市内じゃないんだけどいいかしら。電車とバスを使わないと帰れない不便なところで・・・無理ならいいの。どこか近くの駅で降ろして」

女は、自分の頼みを断られると思っていた。

「別にいいけど」

新車を走らせたい。ただそれだけの理由で賢也は、快く返事した。

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