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危険な香りに誘われて
第5章 虎の真紀
なに、このタイミング。
まるで見計らったように生理になるなんて。
真紀は、枕を抱え、憂鬱な気持ちで隣の部屋のドアをノックした。

「おー、入れよ」

くぐもった声が部屋の中から聞こえる。軽く深呼吸してからノブを回し、中をのぞくと、賢也がベッドの真ん中で胡坐をかいて寛いでいた。下はスェットを履いているが、上半身は、裸。

「うん」

真紀は、ベッドに上がると端っこに、ちょこんと正座した。

「もっと、こっち来いよ」

賢也が、真紀の腕を掴み、引き寄せた。
膝の上で横抱きにされるなんて初めてだ。真紀はドキドキした。

「お前、飯ちゃんと食ってる?」

「えっ、うん。なんで?」

「軽過ぎる」

「そうかな。普通だと思うけど」

「駅弁は、余裕だな」

真紀は、不思議そうに賢也を見つめている。
そんなことも知らないのか。それともフリをしているのか。

「駅弁好きなの?」

「相手による」

「一緒に食べる相手ってこと?」

「その内、お前に食わせてやるよ。とっときの駅弁」

「空弁の方がいいな」

噛みあわない会話。
どうやら真紀は、本当に場数を踏んでいないのかもしれない。賢也は、頬の筋肉を緩ませた。

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