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危険な香りに誘われて
第6章 男の嘘
「疑ってんのか」

賢也の声色が変わった。

「だって」

言い訳をすれば、余計怪しまれる。
テーブルの上に手を置いて俯き加減に唇を噛みしめる真紀を見て、賢也は、小さなため息をついた。真紀の手に自分の手を重ねた。自業自得だ。自分の過去を考えたら、疑われても仕方ない。

真紀が、手を引っ込めようとする。賢也は、手首を掴んで、自分の腕の中へ引き寄せ膝に乗せた。

「どこにも寄らず、真っ直ぐ帰ってきてんだろ」

誰に誘われても、用があると言って断っている。他の誰かと遊びたいとも思わない。何で、分からないんだ。どうしたら、真紀を安心させてやれるのか。

「分かってるけど信用出来ないもん」

賢也の腕の中で不安な顔を見せた。

「浮気したら、私も浮気する」

本気で浮気しようなんて思っていない。ちょっとした警告のつもりだった。

「痛っ」

賢也の歯が、真紀の腕をとらえていた。
シャツを捲り上げて胸にも噛みついた。

「痛いってば」

「男の匂いさせて帰ってきたら、マジで許さねぇぞ。んなことしたら一生、軟禁生活。一人で外出もさせねぇからな」

賢也の目が、笑っていない。真紀は、黙り込んでしまった。

「いいな」

脅すような言葉。真紀は、従う他無かった。黙って頷くと、宥めるように頭を撫でられた。
賢也の首に腕を巻きつけ、切ない声で呟いた。

「浮気しないで、賢也」
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