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危険な香りに誘われて
第6章 男の嘘
マンションに辿り着き、重いため息を吐く。
歩く度にサンダルが、グショグショと鳴く。スカートからは、水が滴りホールに染みを作った。

玄関の扉を開けると部屋には灯りが点いている。
賢也の靴もある。
帰ってたんだ。

「何やってたんだ」

待っているはずの真紀の姿がない。電話しても出ない。何の連絡もない。
賢也は、帰ってきたら説教してやるつもりで、真紀の帰宅を待ち構えていた。
しかし、ずぶ濡れの真紀を見て、怒りは消えた。

「何で、こんなに濡れてんだよ」

「途中で雨が降ってきたから」

「傘持ってなかったのか?風邪ひくぞ、すぐ風呂に入れ」

カバンを取り上げるとお風呂場へ直行するように促す。
元気がないのが、気になる。賢也は、冷たくなった頬に手を添えた。

「なんか、あったのか」

真紀は、目も合わせようとしない。

「別に」

俯き、首を小さく振る。
何で、俺を見ない。賢也は、苛立ち、強引に真紀の顎を掴んだ。
キスをしようと顔を近づけると真紀が、掌で賢也の唇を塞ぐ。

「お風呂入るから、もう出て行って」

賢也の眉が、ピクッと動き、真紀の濡れた髪に手を差し込んで、強引に唇を押しつける。
こんな時間まで、黙って外をうろついていただけでも腹ただしいのに、自分を拒もうとする真紀の態度が、気に入らない。

「誰と、どこにいた」



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