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果てのない海に呑まれて
第10章 兄と弟と母と。
「おや、ミゲルじゃないか! 久しぶりだねぇ、今年の船旅はどうだったね?」
市場を歩けば、気の良さそうな市民がそこかしこから声を掛けてくる
その光景を見る限り、ファルツ家はこの街からとても慕われているように思えた
「レオン坊っちゃんは元気かい?」
「相変わらずやりたい放題で苦労している。少しは頭としての自覚を持って欲しいくらいだ」
「そこがあの子の良いところさ。ファルツ家はみんな気さくで良い方たちだよ」
果物屋のおばちゃんとミゲルが親しげに話していたところへ、旦那だろうか、さらに一人の男性が会話に加わる
「いや、あの金髪の奴ぁいけすかねえ。いっつも馬車の中からオレたちを見下してやがる」
「フェリペ坊っちゃんさえ生きてりゃあねぇ……」
「おばちゃん、その話は」
ミゲルの目が鋭く光り、警戒するように辺りを見回した
「レオンはもうその一件には口を出さないことにしているんだ。すまないが……」
「ああ、いいのいいの。あたしらこそ悪かったねぇ、嫌なこと思い出させちまって。
お詫びにこのオレンジ二つやるよ。もぎたてで美味しいからね。彼女と食べな」