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果てのない海に呑まれて
第12章 喧嘩するほど–––
「……」
静かになった部屋でレオンは深く息を吐く
ちらりと横に目をやれば、机にはまだ目を通していない書類が山となって置いてある
何を何処にどれ程売るか
現在の都市同士の外交はどうなっているか
ーーー今年の海賊行為の成果はどうであったか
すべて既に書かれたものに目を通して署名するだけだが、これがなかなかに面倒臭い
適当に読み流してなにか重要事項が入っていたら大変だ
とはいえ、もともと机仕事が嫌いなわけではないため例年ならこの時期には半分以上は終わっている
ただ今年はリリアを気に掛け過ぎた
黙って座っているからやっているように見えるが、彼の頭にその内容は全く入ってきていなかった
「……」
しばらくぼうっとしてはまたはっとし、その書類の初めからまた目を通す
もうこれで何度目か
"最近商船でもないやたら大きな船がヴィーク海をうろうろしている"ことに関する報告書だということは分かっているのだがーーー
「その船は西方から現れるらしく、船首には……ハァ……」
また溜め息をついて遠くを見るレオンの頬を、どこから入り込んできたのかアウスグライヒの風が撫でてゆく
ーーー深まる秋の気配を含みながら。