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果てのない海に呑まれて
第12章 喧嘩するほど–––
「チッ……しまった、し損じたな」
地面についた小さな赤い点に触れながらレオンは舌打ちした
彼の放った矢は鹿の脚に刺さったが、その命を奪うまではいかなかったらしい
「もう…いや……っ」
馬上を見れば、リリアが顔を覆って小さく震えていた
「無意味な殺生はしないって言ったのに……!」
いつか船の上でレオンが怒りも露に言った言葉だ
それは人に対してのことだったが、今のリリアの姿にレオンは唇を噛んだ
「……すまない、怖がらせるつもりはなかった」
少女に、しかも目の前で大切な命が消えてゆくのを目の当たりにした彼女に、こんな光景を見せるのは酷だったかもしれない
「……帰ろう」
レオンは弓を肩に掛けると、馬に戻りリリアをそっと包むようにして手綱を握った
血のついた指先を見てリリアはまたびくりとする
“怖い……!”
目をぎらつかせて獲物を追うその姿
まさしく獣−−−いや、魔物というに相応しいものだった
初めて会った頃の彼が思い出される