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果てのない海に呑まれて
第13章 懐疑



「……それは失礼しました。ここで何をなさっているんですか」

「見て分からない? お気に入りの美術品を愛でているんだよ」



そういえばジェーニオはかなりの美術品好きで、屋敷にある物のほとんどは彼が南から取り寄せたものだと聞いている



「美しいよね、この顔立ちや体の曲線……完璧な作品だよ」

「……いくら美しくて完璧でも、心のないものは冷たいわ」

「……クス」



皮肉気なリリアの言葉にジェーニオは笑って返した



「分かってないなぁ。本当に冷たいのは人間の方だよ」

「え?」

「嫉妬、独占欲、蔑み……そんな醜いものを心に持っているのが人間だ」



ーーー否定出来なかった

人間にそういうものがあるのは事実

ここに来る前のリリアなら分からなかったかも知れないが、今なら分かる。



だが、それでもーーー



「それだけじゃないってことも、知ってるわ」

「何……?」

「醜い分だけ、綺麗なところもきっと持ってる。美しい心を持たない人間が、こんな美しいものを作り出せるはずがない。美しいものを愛でることも、醜いものを醜いと思うのも、その心がなければ出来ないわ」



"彼を……レオンを見ていれば分かる。嫉妬とか独占欲とか、そんなものの為に何かをしてるんじゃないってこと"



ジェーニオは目を見開いた

この娘は人間を肯定しただけでなく、自分まで肯定してみせた

ジェーニオ自身に、そのような心があることを認めたのだ


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