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果てのない海に呑まれて
第15章 春のキザシ



不安そうな顔をするリリアの頭にレオンの手がそっと乗せられる



「そんな顔をするな。約束は守る」

「……」



リリアは小さく頷き、完全ではないにしろ少し安心して笑いかけた



「……っ!?」



だが顔を上げた彼女の目に飛び込んできたのは、離れてゆく彼が一瞬見せた険しい表情だった−−−



******************************



アウスグライヒ、春の祭典−−−

豊作祈願に端を発するこの行事は、陽射しも暖かく生命が再び息吹く春の初めに行われる

いつも以上に賑わう市場にはいくつもの屋台が並び立ち、広場では様々な催しが開かれていた



“庶民の服着たって全然意味ないじゃない!”



皆から尊敬され、頼りにされているファルツ家

その中でも特に人気のあるレオンの顔を知らぬ者などおらず、彼の周りには何人もの人々が集まってきていた





「一年ぶりだなぁ、坊っちゃん! え? また見ないうちに随分男らしくなったじゃねえか!」

「そう思うならもう“坊っちゃん”はやめてくれ」



男は苦笑するレオンの髪をくしゃくしゃにして笑う



「なーに言ってんだ! オレたちからしてみりゃいつまでたってもガキだよ! 坊っちゃんも、ミゲルもな!」


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