この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
果てのない海に呑まれて
第15章 春のキザシ
不安そうな顔をするリリアの頭にレオンの手がそっと乗せられる
「そんな顔をするな。約束は守る」
「……」
リリアは小さく頷き、完全ではないにしろ少し安心して笑いかけた
「……っ!?」
だが顔を上げた彼女の目に飛び込んできたのは、離れてゆく彼が一瞬見せた険しい表情だった−−−
******************************
アウスグライヒ、春の祭典−−−
豊作祈願に端を発するこの行事は、陽射しも暖かく生命が再び息吹く春の初めに行われる
いつも以上に賑わう市場にはいくつもの屋台が並び立ち、広場では様々な催しが開かれていた
“庶民の服着たって全然意味ないじゃない!”
皆から尊敬され、頼りにされているファルツ家
その中でも特に人気のあるレオンの顔を知らぬ者などおらず、彼の周りには何人もの人々が集まってきていた
「一年ぶりだなぁ、坊っちゃん! え? また見ないうちに随分男らしくなったじゃねえか!」
「そう思うならもう“坊っちゃん”はやめてくれ」
男は苦笑するレオンの髪をくしゃくしゃにして笑う
「なーに言ってんだ! オレたちからしてみりゃいつまでたってもガキだよ! 坊っちゃんも、ミゲルもな!」