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果てのない海に呑まれて
第15章 春のキザシ
念のため一人だけ護衛を傍に付け、祭りの会場へと足を戻す
路地を歩くレオンの口からまたため息が溢れた
“私は……”
そうしながらフッと自分の右手に目を落とす
“簡単に人を…生命を、傷つけるのか……”
人を−−−殺したことはなかったが、そう脅すことは幾度となく。
時には今日のように躊躇いなく痛め付けることもあった
海賊行為に手を染めた頃から、それこそが彼の運命(サダメ)
'我々は無意味な殺生はしない。命を奪ったところで何にもならない'
必要に駆られてやったことだと、自分を正当化してやってきた
だが実際がそうであろうとなかろうとーーーそんなことは関係ない
鹿の死にさえ怯えるリリアが、果たしてこの行為を赦すか
彼女にーーー今のレオンにとって、自らの残虐さは見過ごせない何かであった
そしてそれは、遠い過去の自分にとってもーーー。
赤の魔物は、忘れかけていた自分の醜さを、今はただ忌まわしげに見つめるしか出来なかったーーー
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