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果てのない海に呑まれて
第15章 春のキザシ
祭りの裏で何が行われているか
リリアは何も知らぬままにミゲルと共に屋台を見て回っていた
彼のありもしない結婚話は既に街中に知られてしまったらしい
誰かとすれ違う度、特に男から、声を掛けられたり肩を叩かれたりしていた
「よぉミゲル! 何だ、結婚前から早速浮気かぁ?」
またそう言われてミゲルはいい加減うんざりした顔をする
「俺は結婚しないし、こいつと恋仲なわけでもない。レオンから任されているだけだ」
「そうなのか? じゃあこの子が……」
声を掛けてきた青年はリリアのことを興味深そうに見つめた
何処から洩れたか、レオンが金髪の美少女を愛でているという話は民の間で噂になっていた
「良かったら、ちょっと見ていってくれよ」
じっと観察されて体を小さくしてしまったリリアの力を抜かせようと青年は笑顔で手招きする
リリアはミゲルの方をちらりと確認してから、青年の屋台の影に入った
「……綺麗な色ね」
売り物の中から一つ、薄紫に染められた布を手に取る
彼女の金糸がよく映える色だ
「すげー似合ってるぜ。えーと……」
「リリアよ」
「リリア。どうだ、その布ミゲルに買って貰わないか」