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果てのない海に呑まれて
第15章 春のキザシ
青年はそう言ってミゲルの方を見た
そんなつもりはなかったが、リリアもつられてしまう
二人の視線を受けてミゲルは拒否のため息をついた
「自分が持ってきた品物をわさわざ買う人間がどこにいる」
「ちぇっ、物ってのはなぁ、売買されなきゃ意味ないんだぜ?
はっきり言ってなぁ、この布はここの人間にはちっとばかし高価だ。お貴族様とか、他んとこに売った方が良い」
「大半はそうしているさ。だが他の文化や技術にも触れなければ自分たちのそれもココ止まりだ。多様な文化を柔軟に吸収し、このアウスグライヒを皆で発展させたい。
それが私の願いだ」
「レオン!」
いつの間に戻ってきたのか、レオンが二人の背後から話に入ってきた
「だがお前たちをあまり困らせるわけにもいかないな……次からはファルツ家が無償で職人たちに配るとするか」
「ハハッ、そんなことしてくれる統治者なんか普通いませんよ。ファルツのドンが優しすぎるぜ」
「我々は“統治”しているつもりはないさ。ただ皆と共に歩むべき道を切り開くだけだ」
立場は同じだということを示すように柔らかく笑う