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果てのない海に呑まれて
第16章 相容れぬ心
「レオン…お前は兄に似て優秀だな……」
父の呟きにレオンは次に来る言葉を容易に想像出来た
いつも同じなのだ
父が自分と兄を重ねる時は、決まってーーー
「どうだ、私の跡を継ぐ気はないか。お前なら今からでも……」
「父上、何度も申し上げた通り、私はその器ではありません。ジェーニオに託して下さい」
「お前はそれで今の繁栄が続くと思っているのか……」
ベルナルドは暗い瞳で足元に視線を落とす
レオンが更に反論しようとしたところで、隣部屋から女の声が聞こえてきた
「カタリナ様、お待ち下さい!」
「お退きなさい! わたくしを誰だと思っているのです!? 当主ベルナルドの妻なのですよ!」
そして此方に続く扉が勢いよく開かれる
ベルナルドは妻の方を見ることなくただ落とした瞳を固く閉じ小さくため息をついた
そこに立っていたのは金色の髪をキツく編み込み偉そうに胸を仰け反らしている美しい女
だがその顔はよくよく見れば、少しずつ現れ出した老いを隠すために異様な程厚い化粧で覆われているのが分かる
「ベルナルド様、レオン様に何のお話をなさっていたのです?」
「ただ見送りの挨拶をしていただけだ……何もない」
「いいえ! 貴方がレオン様を呼び出す時は絶対に次期当主の話を持ち掛けること、わたくしが知らないとでもお思いですか!?」