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果てのない海に呑まれて
第22章 移ろいゆく薔薇の中で
トンッ
真夜中のファルツ邸ーーー中庭に妙な音が響く
それはナイフが藁人形のあらゆる場所を刺し貫いている音だった
人形の中心ーーー人間でいうところのちょうど心臓のあたりだけがぽっかりと無傷に残っている
「何だ、いつも以上に精を出しているな。誰か殺したい相手でも出来たか」
「……」
ひたすら剣を投じるミゲルの前に、レオンが暗がりから姿を現す
「……」
「……何故リリアにあんな嘘をついた?」
「……なんのことだ」
「下手な嘘はよせ。あいつを信用していないなどと……あの状況を見て一体誰がそう言える」
レオンが話す間、ミゲルはただ黙ってナイフを弄んでいる
「お前はあの男の動きを止めるだけで良かった。いやむしろそうでなければ面倒なことになる。それを分からないお前ではないはずだ。
だが計算が狂った……投げる直前にリリアが目の前に飛び出した。動揺とあいつに怪我をさせまいとした結果があれだ。これまでのお前なら迷わず投げていただろうにな」
手元の狂い一つで全てが崩れる
そんなことはあってはならない