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果てのない海に呑まれて
第22章 移ろいゆく薔薇の中で
ファルツの谷
それはーーー
「ファルツ家がまだ小さな農家に過ぎなかった頃住んでいた場所だ。
祖先の地……そこに咲く薔薇を売り始めた時から、今のファルツは始まったんだ」
「へぇ……それで、そのファルツの谷は遠いの?」
「いや? だが自分の足で歩くには疲れるな」
馬を引きながらレオンはリリアに説明する
「この数日ルチアーノに付いて随分特訓したようだが、本当に大丈夫なのか?」
「平気よ!……多分」
「……まぁ駈けたりする予定はないからいいか」
というより、正直レオンと乗る方が心配だった
やたらに体が密着するし、どんな悪戯をされるか分かったものではない
「……」
「どうした?」
不意に建物を支える柱の一本を見つめ出したリリアにレオンは其方を振り向いた
「ニノが……」
柱の陰からじっと此方を覗き見ている少年
出会った当時は貧しい孤児として充分な栄養も取れず小柄だったその体は今ではだいぶしっかりしてきていた
伸びた後の背丈や本人の話から恐らく十歳前後だろうとミゲルが言っていた