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果てのない海に呑まれて
第4章 赤の魔物
“赤の魔物”
箱入り娘で市井にあまり詳しくないリリアだったが、父や叔父たちが話すのを聞いたことがある
それは普段は商船の姿をしているのに、ひとたび獲物を見つけると海賊船へと姿を変える
‘またやられた! あのファルツの魔物だ!’
父がそう言っていたのを思い出す
ヴィークの北岸に位置する大都市、アウスグライヒ
その実質的な支配者であるファルツ家は貴族より貴族らしい商人の一族と言われ、“ヴィークの皇帝”とまで称されていた
“ヴィークの皇帝は魔物を飼っている”
真っ赤な旗を掲げ相手の全てを奪ってゆく
故についた異名が“赤の魔物”なのである
そんな魔物がすぐ傍にいる
いや、今自分は魔物の腹の中にいるのだ
リリアはその事実に、部屋で一人震えていた−−−