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果てのない海に呑まれて
第4章 赤の魔物



「終わったぞ」



しばらくして部屋の扉が開かれる

リリアにとっては丸一日も経ったような感覚だったが、現実にはほんの数分の出来事であった



扉の外に襲った船が遠ざかってゆくのが見える

乗組員たちも戦利品を下甲板に積み込み何事もなかったかのように普段の仕事に戻っていた



だがリリアは出ようとしない

彼女の目は未だ高く掲げられた彼らの象徴に釘付けになっていた



「……私が誰か、分かったのか」



その様子に気が付いたレオンは笑ってわざとリリアに問うた



「貴方、は……ファルツ家の……?」

「そう、レオン・ファルツ。私が“赤の魔物”だ」



レオンは笑みを浮かべたままじりじりと距離を詰めてくる

リリアは震える足で彼から逃れようと後退った

その瞳はまさに獲物を見つけた獣そのもの

爛々と輝き、彼女を捕える



「あ……っ」



背中に壁を感じてリリアから小さく声が洩れた

続いて横に逃げようとした彼女をレオンの腕が阻む



「魔物に魅入られるとは……」



両腕に挟まれ身動きが取れなくなる



「哀れな娘だな」



レオンの唇がゆっくりと近づき−−−

彼女に触れる−−−



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