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果てのない海に呑まれて
第32章 そしてまた一人



母はカレルを使って皇帝に伝手を作ろうとしているのだろう



ブリジッタはその程度にしか考えていなかった

そもそも、彼女と同い年のこの男の子がブリジッタは少し苦手だった



「ブッサイクだなー、お前。他の姉妹はマトモなのに、何でお前だけそんなんなんだ?」



一番気にしていることを無遠慮に言ってくる彼に、それでも精一杯優しく接しているつもりだった

だがブリジッタが我慢して笑えば笑うほど彼は調子に乗った



「何だこいつ、いっつもヘラヘラしやがって馬鹿なんじゃねーの。オレ、絶対こいつとだけは結婚しないわ」







とても貴族の子弟にはならないような言動をしても、タチアナはカレルに甘かった

それでも彼は天性の賢さとその見た目で皇帝の心を掴んでみせたのだ



–––皇帝に関する噂は、さすがに真実にはならなかったが。




時の最高権力者に気に入られたカレルは、タチアナの入れ知恵した通りにおねだりした








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