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果てのない海に呑まれて
第33章 傍に居たい人
「もう六年も前になります。家族で出掛けようと馬車に乗ろうとした時、馬が暴れたんです」
自分はいつものように、一番後ろにただ存在を消して控えていた
馬が嘶き脚を高く上げ–––振り降ろされたのは、カレルの頭蓋。
考えるより先に体が動いていた
「カレル–––っ!」
次の瞬間、目の前が真っ赤に染まる
だが不思議と痛みは感じなかった
「…あ……」
地面に倒れこむカレル
「…ブルルッ」
未だに興奮の収まらない馬が地面を踏み鳴らし、その脚には何かが飛沫のように飛び散っている
「き…きゃぁぁあぁ!」
誰かの悲鳴を聞いて初めて、ブリジッタは現状を理解した
「…それは彼の血でした。きっとあのままでは死んでいたから……彼を突き飛ばしたことは後悔していません。
それでもどうして身代わりになるまで出来なかったのかと……自分は無傷だったのかと、今でも思いますわ」