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果てのない海に呑まれて
第43章 温もり
「この谷には季節が夏と冬しかないそうだ」
馬の蹄の音とともに現れたミゲルが、極端に言えばだがな、と説明を続ける
「夏に咲いた薔薇は枯れる間もなく冷気にさらされ、凍る。次の夏が来る頃にようやく溶けて……そのまま崩れて消える」
一瞬たりとも隙を見せず、気高く美しいままで死んでゆく
まるであの時のリリアのようだ
「……」
–––と、心の中で思っていたりするのだろうか。
ミゲルの目は真っ直ぐに彼女を見ていた
「そうか……冬に来たことはなかったからな」
「俺も驚いた。まさに神秘的だな」
リリアは何も言えないままもう一度薔薇に触れていた
青い花びらは日の光を受けて誘うように光っている
「…あっ……!?」
「リリア!?」
声をあげたのに反応してレオンが素早くリリアの手を掴む
「また切ったのか?」
「大丈夫…少しびっくりしただけ……」