この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
果てのない海に呑まれて
第45章 全てお前の為
「ミゲル……貴方のお父様は私たちを助けてはくれなかったけれど…私は貴方に会えて幸せよ。
だから……どうか母さんを恨まないでね」
母の記憶は朧だが、何度も言って聞かされたその言葉だけははっきりと覚えている
幼い俺が母を恨むはずもなく–––あの日もただ大人しく彼女が戻るのを待っていた
それでも、子供心に疑問はあった
「……」
寒い冬の朝、もう数日何も口にしていない俺は空腹というものさえ忘れかけていた
ただ虚ろに前を見て、気がつけば、幾人かの踊り子がそこで芸を始めた
その人たちの見た目は俺や母とは違う–––だが他の多くの人間とも違う
茶褐色の肌に、真っ直ぐ伸びた黒髪
その踊りは通り掛る者の足を止め、俺もすっかり釘付けになっていた
我を取り戻したのは、誰かが彼女たちにパンや銀貨を与えた瞬間だった
ほとんど欠片のようなパンでも、見た瞬間に体が空腹を思い出す