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果てのない海に呑まれて
第45章 全てお前の為
盗むようにその手からりんごを奪い、歯を立てる
ほとんど芯だけのそれはあまりにも硬かったが–––それでも味わったことのない甘みが口の中に広がった
「……じゃあね」
その時少女がどんな顔をしていたかは知らない
呆れていたかもしれないし、獣のような子供に怯えていたかもしれない。
「……あ」
ありがと、と言おうとした時には彼女はもう仲間のところに戻っていた
「……」
「あらミゲル、それどうしたの?」
いつのまにか母が戻ってきていて、俺は僅かに視線を上げる
もともと着るものなんてほとんどない俺たちだったが–––母は冬だというのに薄い布一枚だけだった
ほとんど全裸の女を訝しむように人々が見ている
「……母さん?」
そして俺ですらそう疑ってしまうほど–––長かった髪は一夜にして頭からなくなり、歯もないその風貌は変わり果てたものだった