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果てのない海に呑まれて
第45章 全てお前の為
「どうか母さんを恨まないで……」
呟かれたいつもの言葉
それが記憶に残る最後の母の姿。
「お前は捨てられたんだよ」
笑顔で母と俺を引き離した修道院長は、感情の籠らない目で俺を見つめた
その目は俺の中で生き続け–––事情を理解してもなお、瞳は乾いたままだった
「でもまぁケチュア人がこの町で生きていこうなんて到底無理なことだからね……お布施積んでも捨ててくれた母親に感謝するんだよ」
俺が入れられた修道院は孤児院も兼ねていて、故に他の子供も多くいた
その誰もが同じ神を信じている中で、俺だけが–––異端。
”格好の餌食”とはこのことだった
「……っ」
殴られた頬が痛む
ただでさえ与えられる食事の少ない孤児院で、俺は度々他の奴らに自分の分を奪われていた
今日で丸二日、水以外何も口にしていない
いや、正確に言えば昨日わずかに降った雪を口にして飢えをしのいだが腹の中で溶けてしまえば同じこと。