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果てのない海に呑まれて
第45章 全てお前の為
「……あの子は」
「ああ、あれは……ケチュア人の女が置いていったのですわ。四年ほど前に」
「…ケチュア人か……」
男たちは目配せすると、うち一人が院長に相談を持ち掛けた
「言葉は話せるのか? 病気などはないか?」
「え、いえ…至って普通ですが……まさかあの子を選ばれるので?」
「実は当家の当主は慈善事業に熱心でな……何か問題でも?」
下級貴族相手ならさっさと厄介払いしようと俺を勧めさえする院長が、遠目で見ても分かるほど焦っている
–––それほど身分の高い家なのか
「でもあの…名門ファルツ家様には似つかわしくないかと……やはり野蛮人ですし……」
「野蛮人……強いのか?」
「ええ! この孤児院でももう何人もの子供達が被害に遭っているのです」
「……」
”よく言ったもんだな……”
今朝負ったばかりの生傷に触れながら俺は鼻で笑った
食事も睡眠もまともに取っていないガキに何かできるわけがないだろう