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砂の人形
第2章 パレードの夜
髪につけた花が視界の隅で揺れていた。それで僕はようやく、姫様が震えているのに気づいた。僕の服を握りしめて、姫様は言葉を探して黙り込んでしまった。黒目がちな瞳は涙で曇り、どこか遠く、細い月が逃げていくのを追っているようだった。姫様は、これから起こることをすでに聞かされているらしかった。
「姫様。じき、日が昇ります。続きはお部屋で聞きますから」
「待って……テーゼ!」
肩を抱いて部屋へ促そうとすると、姫様はそのまま僕の胸にしがみついてきた。花の匂いが鼻腔をついて、柔らかな体が押し付けられて。顔を上げた姫様と、まともに目が合った。無防備で無力、そのくせ強くすがりついてくるような、信頼の眼差し。僕がどんな人間で、何を考えているかなんて知りもしない。僕が何より大好きな、夜風のように安らかな黒い瞳。
「私を、愛してるでしょ?」
あんまり無神経な言葉だからかっとなった。僕にはそんな資格はないし、もし例え愛していたとしても、あなたはいずれ他の男に嫁ぐのに。僕のものになんか絶対ならないのに。
それなのに僕は、悔しいくらいにあなたのことばかり考えている。他の女を抱くときも自慰するときにも、あなたが僕を見てくれるその目や豊かな黒髪を、抱えきれないくらいに思い描いている。
「ねぇ、そうよね。そうだと言って!」
姫様の目尻から、涙が溢れた。濡れたまつ毛に朝の光が差し込んで、虹色に輝いて見えた。透き通る頬が薔薇色に染まって眩しいくらいだった。
「お願い」
それが望みなら聞かせてやればいい。この人は喜んで足を開くだろう。姫様は長年欲しがっていた言葉を聞ける、僕はずっと焦がれてきた体に触れることができる。それでいいはずなのに。
「姫様。じき、日が昇ります。続きはお部屋で聞きますから」
「待って……テーゼ!」
肩を抱いて部屋へ促そうとすると、姫様はそのまま僕の胸にしがみついてきた。花の匂いが鼻腔をついて、柔らかな体が押し付けられて。顔を上げた姫様と、まともに目が合った。無防備で無力、そのくせ強くすがりついてくるような、信頼の眼差し。僕がどんな人間で、何を考えているかなんて知りもしない。僕が何より大好きな、夜風のように安らかな黒い瞳。
「私を、愛してるでしょ?」
あんまり無神経な言葉だからかっとなった。僕にはそんな資格はないし、もし例え愛していたとしても、あなたはいずれ他の男に嫁ぐのに。僕のものになんか絶対ならないのに。
それなのに僕は、悔しいくらいにあなたのことばかり考えている。他の女を抱くときも自慰するときにも、あなたが僕を見てくれるその目や豊かな黒髪を、抱えきれないくらいに思い描いている。
「ねぇ、そうよね。そうだと言って!」
姫様の目尻から、涙が溢れた。濡れたまつ毛に朝の光が差し込んで、虹色に輝いて見えた。透き通る頬が薔薇色に染まって眩しいくらいだった。
「お願い」
それが望みなら聞かせてやればいい。この人は喜んで足を開くだろう。姫様は長年欲しがっていた言葉を聞ける、僕はずっと焦がれてきた体に触れることができる。それでいいはずなのに。