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潮騒
第2章 身代わりの花嫁 ー風波ー
別にいい交わした相手が居るわけでもない。
だが、見も知らぬ男に嫁ぐのはやはり気が重い。
殆ど親戚、知り合いのこの狭い集落の中で、菊乃は相手の男の事を殆ど知らない。
知っているのは、村に一軒だけある床屋で働いている、という事くらいか。その弟は、姉のサキゑより一級上で、顔は知っている、物静かな優しい人やった、いうことだったが、その兄の事はサキゑも知らん、と言っていた。

息子が物静かで優しくても、舅と姑が同じ様に優しいとは限らぬ。ましてや縁談組むのに借金を振りかざす様な人らや。
お姉ちゃんが、弱い身体で無理に嫁いで、役に立たぬ嫁と酷い仕打ちを受けるとしたら、それは耐えられない。

ならば、己が引き受けるべきなのだろう…
それが、己の宿命なのだろう…

そう、これが、順当にサキゑに行った話であれば。きっと自分は横から口を出したに違いない。
お姉ちゃんを嫁がせるくらいならうちが行く、と。
己で決めたことならば、腹も決まる。
だが、母から押し付けられたことだから。
父は申し訳なさそうに肩身を縮め、母は当然のような顔をし、姉は、妹が幸せな結婚をすると信じて疑わぬから、もやもやとしたものが残るのだ。
母に言わせればきっと、同じ嫁ぐのになんの違いがある、と一蹴されるだろう。
でも、順を違えるだけで心持ちは全然違う…
菊乃は、幾度目かの溜息を吐いた…
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