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潮騒
第11章 正一郎の帰還 ー白波ー
耕太郎も退院してきて、久しぶりに家族が揃う。

郁男は元気に育ち、殊にヨシと耕太郎が跡取り跡取りと下にも置かぬ可愛がりよう。郁男を産んだ時、臭い汚いと言われたことを、菊乃は根に持っていたが、当のヨシはすっかり忘れている様子だった。

菊乃は昼間は相変わらず目が回るほど忙しく、その間はヨシと耕太郎が郁男を見ている。郁男が乳を求めて泣けば家の中から呼ばれて乳をやりに行く、と言った様子だった。

乳が離れてからは呼ばれることもなくなり、どちらの子だか分からぬ有様。郁男も可愛がってくれるのは祖父母だから、菊乃が居なくてもどこ吹く風、という様子だった。
子を可愛がってもらえることを親として嬉しく思う反面、ヨシのムラ気な性格が子にどのような影響を与えるか、一抹の不安が拭い去れずにいた。

「なぁ、正一郎さん…郁男の事なんやけど…」

「どうした」

「昼間、面倒見てくれるのは助かるんやけど、甘やかしすぎやないかな…」
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