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潮騒
第12章 時代のうねりー津波ー
この頃、赤紙で招集される条件として、職人や一家の長は除く、となっていたのだが、なんの手違いか、正一郎にも届いた。

外では大っぴらには出来ないが、それでも戸惑い、なんでやろか、と独りごちる。
聞いていた耕太郎も居た堪れぬ、と言った様子で、正一郎は戸籍の上では五男坊やからの、と呟いた。

それなりの年になれば、親が健在でも隠居しているだろうし、何男だろうが独り立ちして一家の大黒柱たり得るだろうが。
それとも長男が継ぐ本家以外は残らんでもいい、ということか?
菊乃はお役所仕事は詰めが甘い、とイライラした。

出兵を控えた前夜。

菊乃は神妙な面持ちで寝間に入る。

正一郎はいつもと変わらず、菊乃を抱いた。
正一郎に組み敷かれ、正一郎を受け入れながら、菊乃は泣いた。

もしかしたら、これが最後かもしれない。
もう、帰って来ないかもしれない。
そう思うと、快感もなく、ただ正一郎の情動に身を任せるだけ。

菊乃の奥深くに欲を注ぎ、正一郎は菊乃の涙を拭う。

「泣くな、縁起でもない。俺は帰ってくる。生きて、帰って来るからな。」

「…うん、うん…帰って、来てな…」

正一郎の肩を抱く腕にぎゅっと力を込めた。

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