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潮騒
第2章 身代わりの花嫁 ー風波ー
「肉付きも悪ないし、手もそこそこ荒れとる。家の事は出来んわけやなさそうやな。まぁええやろ。」

手を招くように座れと指示してくる。
失礼な態度にむっとしながら、言い返すのも面倒で、すとんと座り、ふいと顔を背けた。

正一郎の手が菊乃の前襟に伸びた、かと思った瞬間、ぐいっと割るように合わせを開かれる。
顔を背けていた菊乃は、一瞬抵抗が遅れ、単衣が肌蹴た。
決して豊かとはいえない、白い膨らみが露わになり、慌ててかき抱くように隠す。

「何をっ…!」

「隠すな。俺は曲がりなりにも夫やぞ?」

「いきなり失礼でしょう!? 親しき仲にも礼儀ありって知らんのですか!?」

正一郎はふん、と鼻で笑い。

「それは親しい他人に使う言葉や。身内(いえのもん)には使わん」

身内。
今日初めて会ったのに。
今初めて、まじまじと顔を見たのに。
嫁として気を許しているというより、嫁としての責務を果たせるかどうか品定めしているようにしか見えぬ。

この男に、一生仕えていかねばならぬのか…

菊乃は俯き、ひとつ息を吐いた。

畳にぽたり、とひと粒の涙が落ちた。



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