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潮騒
第14章 終戦 ー崩れ波ー

「…………」
しゃがんだ姿勢で、火吹き竹で火種に空気を送っていた菊乃は、驚いて弾かれたように立ち上がったものの、すぐには反応できず。
火吹き竹を手にしたまま、無言で立ち尽くし、ただ目を瞬かせる。
そんな菊乃を見て、正一郎はぷっと吹き出した。
「なんちゅう顔しとるんじゃ…不細工に拍車が掛かっとるやないか」
この物言い、正一郎本人か…
元々日焼けはしていたが、更に黒さを増した顔、着たきりの軍服と軍靴も血と汗と泥に塗れ、ボロボロで、あちこち破れており、大層臭う。
「…ホンマに…正一郎さん…?」
辛うじて喉から絞り出した声は、震え、掠れて老婆のようだった。
「なんや、たった二年で己の旦那の顔まで忘れたんか? 薄情な女やの。」
ニヤニヤと意地の悪い笑顔は、間違いなく正一郎のものだ。
ごとりと火吹き竹を取り落とし、震える口元を手で覆う。
じわりと涙が盛り上がる。
震える足で駆け寄り、菊乃は正一郎の胸に飛び込んだ。
しゃがんだ姿勢で、火吹き竹で火種に空気を送っていた菊乃は、驚いて弾かれたように立ち上がったものの、すぐには反応できず。
火吹き竹を手にしたまま、無言で立ち尽くし、ただ目を瞬かせる。
そんな菊乃を見て、正一郎はぷっと吹き出した。
「なんちゅう顔しとるんじゃ…不細工に拍車が掛かっとるやないか」
この物言い、正一郎本人か…
元々日焼けはしていたが、更に黒さを増した顔、着たきりの軍服と軍靴も血と汗と泥に塗れ、ボロボロで、あちこち破れており、大層臭う。
「…ホンマに…正一郎さん…?」
辛うじて喉から絞り出した声は、震え、掠れて老婆のようだった。
「なんや、たった二年で己の旦那の顔まで忘れたんか? 薄情な女やの。」
ニヤニヤと意地の悪い笑顔は、間違いなく正一郎のものだ。
ごとりと火吹き竹を取り落とし、震える口元を手で覆う。
じわりと涙が盛り上がる。
震える足で駆け寄り、菊乃は正一郎の胸に飛び込んだ。

