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潮騒
第15章 食卓の風景 ー波間ー
昼飯を食べながら、菊乃はずっと気になっていたことを聞いた。
良太郎の消息だ。
正一郎と浩二郎は、集落でも早い引き揚げで、帰ったことが知れれば自分の身内の無事を願う家族に、質問攻めにされるのは目に見えていた。
職業軍人ではない、民間兵の生死について戦地から報告のあるものは少ない。
大抵は、ポケットに忍ばせた、家族に宛てた手紙や、身に着けていた物などを、遺品として生き残った者が持ち帰り、所属部隊の記録から出身地を探して届けてやったり、引き揚げ船の中や停泊した港で、互いに情報交換したものだ。
己の身内が、生きているのか死んでいるのか、死んだのならどのような最期だったのか、少しでも手がかりになるものを求めるのは人の常。
仲間内で、お互いどちらかが生き残れば、と手紙を交換したりしても、どちらも帰れぬことも珍しくなく、故郷に帰ることができる者は、出来る限り同郷者の情報を持ち帰ってやりたいと思い、皆必死に消息を教え合っていた。
「良太郎のことは…二人とも何も聞かんかった…?」
菊乃の言葉に、ヨシと耕太郎にも緊張が走る。
正一郎はかぶりを振り、浩二郎は手に持った茶碗に視線を落とし、沈痛な面持ちで項垂れる。
「…良太郎は…あかんかったみたいや…」
全員の口から溜息が漏れた。
良太郎の消息だ。
正一郎と浩二郎は、集落でも早い引き揚げで、帰ったことが知れれば自分の身内の無事を願う家族に、質問攻めにされるのは目に見えていた。
職業軍人ではない、民間兵の生死について戦地から報告のあるものは少ない。
大抵は、ポケットに忍ばせた、家族に宛てた手紙や、身に着けていた物などを、遺品として生き残った者が持ち帰り、所属部隊の記録から出身地を探して届けてやったり、引き揚げ船の中や停泊した港で、互いに情報交換したものだ。
己の身内が、生きているのか死んでいるのか、死んだのならどのような最期だったのか、少しでも手がかりになるものを求めるのは人の常。
仲間内で、お互いどちらかが生き残れば、と手紙を交換したりしても、どちらも帰れぬことも珍しくなく、故郷に帰ることができる者は、出来る限り同郷者の情報を持ち帰ってやりたいと思い、皆必死に消息を教え合っていた。
「良太郎のことは…二人とも何も聞かんかった…?」
菊乃の言葉に、ヨシと耕太郎にも緊張が走る。
正一郎はかぶりを振り、浩二郎は手に持った茶碗に視線を落とし、沈痛な面持ちで項垂れる。
「…良太郎は…あかんかったみたいや…」
全員の口から溜息が漏れた。