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潮騒
第17章 終章 ー凪ー
ヨシも亡くなり、浩二郎とタエも近くに居を構えて親子五人の生活になったのは終戦から数年後のことだった。

近所に住んでいるため、行き来はあったが、菊乃はようやっと求めた生活を得た、と感じた。


更に年月は過ぎ、子供達はそれぞれ家を離れた。
郁男は自衛官、啓三は警察官。二人とも道は違えど硬い職に就き、皐月も嫁ぎ、菊乃は安心した。

二人とも床屋も漁師も継がなかったが、床屋は正一郎と共に店を営んでいた従兄弟の子が継いだし、船ももう古くなり、あちこち傷んでいるから、惜しくもなかった。

家を継ぐ唯一の血縁だった一郎が戦死したことで、継ぐ者のなくなった、はつ江の婚家に養子に入った青年が、皐月の夫である。
実直な青年で、元々親戚ではあったが、皐月と結婚してからは正一郎と菊乃を『親父さん、お袋さん』と呼び、仕事が漁師なので、家にもよく魚を持ってきてくれた。

郁男は転勤の多い仕事で、家族を伴って全国を転々としていたが、上の子の小学校入学に伴い、田舎に家を建てた。
それでも勤務地からは遠く離れている為、郁男は単身赴任となり、新居には嫁と子供、そして正一郎と菊乃が住む予定になっていた。

三人目の子が産まれる直前、新居の完成を待たず、正一郎は癌で他界する。
七十歳だった。
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