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潮騒
第17章 終章 ー凪ー
通常、末期の胃癌というのは、食事がとれなくなって痩せ細り、のた打ち回るほどの痛みをモルヒネで誤魔化しながら死を待つしかない、と言われていたが、正一郎は検査の数値上ではいつ死んでもおかしくないほどの末期にありながら、痩せても少しずつ食事をとっていた。

家族にも医者にも、痩せ我慢なのか、痛いそぶりなど爪の先程も見せず。

「先生、何で病院の飯には刺身が出んのや。儂旨い刺身が食いたいんやけど」

と医者に言って、啓三と変わらないくらいの若い医者に

「高野さん、病院はあなたの様な抵抗力の落ちた人が来る場所なのでね?食中毒の原因になる生モノは出せないんですよ。」

と苦笑される。
それでも食べたいと言い張る正一郎に、担当医は

「病院の食事では出ませんが、ご本人の希望ですので、差し入れはして頂いて結構です。但し、新鮮なものを少しだけにして、できるだけ傷まないように持って来てくださいね。」

と言い、菊乃は、皐月の夫が持って来てくれた朝獲れたばかりの鯵を刺身にし、沢山の氷とともに、持っていった。
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