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潮騒
第17章 終章 ー凪ー
久々の刺身に正一郎は相好を崩し、
「旨いなぁ…」
と呟いたが、すぐに刺身を箸でつまんで誰が捌いたのかと聞いてくる。
「郁男や、丁度休みで帰ってきとる。今は子供を連れて出掛けとるから後で病院にも寄るやろ」
と菊乃が答えると、目を眇めて溜め息をつき、
「アイツ…お前と同じぎっちょ(左利き)やからの。刺身がグズグズやないか。もっとキレイに捌けて言うとけ。」
と文句を言いながら数切れの刺身を完食した。
此の期に及んで口の減らない正一郎に、菊乃も嫁も呆れて顔を見合わせたが、担当医はその様子に目を丸くし、
「ご主人は…なんというか大変お元気ですね…通常ここまで進行すると食事どころじゃないはずなんですが…胃癌の方を何例も見ていますけど…食べたいと思う気持ちがあるというのが凄いことですよ。きっとまだまだ大丈夫です。」
と医者に太鼓判を押された日、正一郎は眠るように息を引き取った。
差し入れの完食を見届け、ほっとして帰宅したところだった菊乃は、病院からの連絡に、息つく暇もなく引き返した。
「勝手な…あんたは最後までうちを振り回してくれたなぁ、ホンマに…難儀な男やで…」
菊乃は溜息を吐き、独りごちた。
….でも。すきやった….
あんたはとうとう言うてくれなんだけどなぁ….
縁があったのが、浩二郎さんやのうて、あんたで、よかったわ…
「旨いなぁ…」
と呟いたが、すぐに刺身を箸でつまんで誰が捌いたのかと聞いてくる。
「郁男や、丁度休みで帰ってきとる。今は子供を連れて出掛けとるから後で病院にも寄るやろ」
と菊乃が答えると、目を眇めて溜め息をつき、
「アイツ…お前と同じぎっちょ(左利き)やからの。刺身がグズグズやないか。もっとキレイに捌けて言うとけ。」
と文句を言いながら数切れの刺身を完食した。
此の期に及んで口の減らない正一郎に、菊乃も嫁も呆れて顔を見合わせたが、担当医はその様子に目を丸くし、
「ご主人は…なんというか大変お元気ですね…通常ここまで進行すると食事どころじゃないはずなんですが…胃癌の方を何例も見ていますけど…食べたいと思う気持ちがあるというのが凄いことですよ。きっとまだまだ大丈夫です。」
と医者に太鼓判を押された日、正一郎は眠るように息を引き取った。
差し入れの完食を見届け、ほっとして帰宅したところだった菊乃は、病院からの連絡に、息つく暇もなく引き返した。
「勝手な…あんたは最後までうちを振り回してくれたなぁ、ホンマに…難儀な男やで…」
菊乃は溜息を吐き、独りごちた。
….でも。すきやった….
あんたはとうとう言うてくれなんだけどなぁ….
縁があったのが、浩二郎さんやのうて、あんたで、よかったわ…