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第3章 婚家の実情 ー磯波ー

一切、といったところで食事を作るのも洗濯をするのも母のヨシで、ひいては嫁である菊乃の仕事になるわけだが。
しかも、正一郎などという名で、両親を養っているから当然長男かと思いきや、ヨシは耕太郎の後添いで、上に腹違いの兄と姉が七人からいる。

実際は五男坊で、先祖譲りの田畑は長男が継いでおり、現在作っている田畑は借地。
耕太郎の先妻が亡くなり、若い後添いを貰うとなった頃には長男も嫁を貰う頃合いで、流石にひとつ屋根の下には住めぬと、長男に家を譲り、耕太郎がヨシを連れて家を出たのだそうだ。

後添いのヨシが産んだチヨと耕太郎の初孫は一つ程しか変わらぬらしい。それだけならば子沢山の家など何処にでもあることだから別に驚くことでもないが、チヨと正一郎と浩二郎はそれぞれ二つ三つ程度の年の差なのに、十何年も離れてから子など授かるものだろうか。
些細ではあるが喉元に引っかかった棘のような疑問だった。

正一郎は幼い頃から理髪師として修業し、腕もよく、少し前まで出稼ぎにも行っていたらしい。

この小さな集落で、菊乃が正一郎を見知らなかったのはその為だった。